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札幌高等裁判所 昭和24年(行ナ)6号 判決

控訴人 被告 東旭川村農地委員会

訴訟代理人 斎藤忠雄

被控訴人 原告 長尾章

訴訟代理人 高橋岩男 外一名

主文

原判決を取消す。

被控訴人の訴を却下する。

訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は原判決を取消す被控訴人の訴を却下する又は被控訴人の請求を棄却する訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は、控訴代理人において本件訴は行政事件訴訟特例法第二条に違反し不適法である本件土地買収に際して被控訴人はその計画あることを知りながら自作農創設特別措置法第七条による訴願等不服の申立をしていない。同法附則によれば「この法律は昭和二十三年七月十五日からこれを施行する」とあり地域による施行期日の特例がない限り遠隔の地域にある者であると否とに拘わらず、又法律を知ると否とに拘らわず全国民に対し同日より効力を生じているものと見なければならない。すなわち被控訴人は遠隔の地にあつたため法律施行後間もないので法律を知る由もなかつたので訴願等不服の申立をしなかつたことは同法但書による正当な理由ということはできないのであると述べた外、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

立証として、被控訴代理人は甲第一号証の一、二、同第二号証、同第三、四号証の各一、二、同第五、六号証を提出し、原審証人藪下米吉、林喜三郎、長尾艶子及び当審証人長尾艶子の各証言を援用した。同じく控訴代理人は乙第一、二、三号証並に原審及び当審における控訴人代表者訊問の結果を援用した。

理由

本訴は、控訴農地委員会が昭和二十三年六月二十一日被控訴人所有にかかる北海道上川郡東旭川村字旭正百二十五番地の二田二町五反歩同字百五十八番地田二町二反歩に対して定めた買収計画の取消を求めるものであるが、本訴の提起が昭和二十三年七月二十九日であることは訴状及びその受付印に徴して明らかである。

行政事件訴訟特例法第二条によると、行政庁の違法な処分の取消又は変更を求める訴はその処分に対し行政庁に対する不服の申立のできる場合にはこれに対する裁決、決定その他の処分を経た後でなければ正当な事由がない限りこれを提起することができないのであつて、その附則第一項には同法は昭和二十三年七月十三日からこれを施行する旨規定している。そうして自作農創設特別措置法第七条によると、農地買収計画に定められた農地につき所有権を有する者は、当該買収計画について異議があるときは、公告の日から十日の期間内に市町村農地委員会に対して異議を申立てることができ、この異議について市町村農地委員会のした決定に対して不服があるときは都道府県農地委員会に訴願してその裁決を受けることができるものであるところ、被控訴人はその主張の買収計画について公告のあつた昭和二十三年六月二十一日から十日の期間内に異議の申立をしないで本訴に及んだことはその主張自体に徴して明らかであるから、被控訴人が異議の申立をしなかつたことにつき正当な事由がない限り本訴は不適法たることを冤れない。被控訴人はその正当な事由として、当時通信交通等混乱しておつたため行政事件特例法を掲載した官報その他刊行物が旭川地方に到着するのは一月以上後であり、早急に該刊行物を入手する道が全くなかつたので、同法に則り提起すべき訴の前提要件として訴願等不服の申立をしこれに対する決定又は裁決を経ることが必要である事実を知ることができなかつたので、同法施行前と同様それらの手続を経るを要せずと考えたからであつて、該法規を知つた後は既に異議申立期間を経過しその申立をするに由なき状態であると主張するのであるが、被控訴人がその主張する買収計画についての異議申立期間は行政事件訴訟特例法の施行前すでに経過してしまつていたのであつて、同法の施行を知ると否とは全然関係のないことであり、そうして前示法条にいう正当の事由は取消の訴の提起前に裁決を経なかつたことについて正当の事由を指すものである以上、右主張のように、取消の訴提起の当時同法の規定を知ることができなかつたという事実はその訴を適法ならしむべき正当の事由とするに足りないことはいうまでもないところである。ゆえに本訴は不適法として却下すべきものであるにかかわらず本案について被控訴人の請求を認容した原判決は到底不当たるを免れない。

よつて民事訴訟法第三百八十六条、第八十九条、第九十六条を適用し、主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 浅野英明 裁判官 藤田和夫 裁判官 鈴木進)

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